えいが

映画の感想

2021年映画館/印象的な10作品

 2021年は毎週の休みを利用して映画館に通い詰めた一年だった。新型コロナウイルスへの感染を避けたいという生存本能、灰色の日常を彩るエンタメ体験をしたいという渇望との葛藤が導き出した答えが映画館だった。かなり後ろ向きな理由で始めた映画館通いだったが、年末になり振り返ってみると大いに映画館に助けられた1年だったと感じる。その中でも特に記憶に残っている10作品を選んでみた。

 
・きまじめ楽隊のぼんやり戦争(3月26日公開・日本)
 雑多な要素を削ぎ落として、人類の愚かな部分を極端まで戯画化することを推し進めた映画。その暗い日常の中でも希望を感じさせる交わりがある。ただ、その交わりも理不尽に破壊されてしまう。この映画では戦争の悲惨さ、大事な人を喪う辛さを前面に出さないことで、その存在をより感じてしまい大いに食らわせる形になっていた。
 
・JUNK HEAD(3月26日公開・日本)
 「7年の間ほぼ1人で作ったクレイアニメ」というだけで大変衝撃的なのだが、ただその事を知らない状態で観ても評価はそれほど変わらなかったと思う(その状態で観たかった)。クレイアニメが醸し出すある種の無骨さ、不気味さと、作り込まれた設定が裏にあるのだろうと感じさせるわけわからん用語の数々、やり取りのおかしさが最高に異世界感を出していて最高だった。
 
・ファーザー(5月14日公開・英仏合作)
 『レリック-異物-』『OLD』に並ぶ「老い」映画の筆頭として取り上げた。とにかくこの映画は認知症の人間から世界がどう見えるのかを、視覚的にしっかりと作り上げて、それが完璧に観ている人間にも驚きを以て迎えられるものになっていた。不思議の国に迷い込んだようなめくるめくワンダーの数々に心奪われてしまったと同時に自分や周りの人間がそうなったらと考えると恐ろしさも感じる。
 
・映画大好きポンポさん(6月4日公開・日本) 
 映画制作の撮影部分ではなく編集の部分に重きを置いた切り口も好きだし、作中主人公のポンポさんが言っている映画は90分が良いという繰り返されたテーマを証明する上映時間になっていて「言行一致」の気持ちよさ・潔さを感じた。
 今年同じ映画制作をテーマにした『サマーフィルムにのって』もあったが、映画を最後まで上映したポンポさんの方に軍配を上げた感じです。
 
・1秒先の彼女(6月25日公開・台湾)
 変な映画。ミステリであり恋愛ものでもありSFでもありサイコパス的でもあり、その全てがシームレスに溶け合っていて奇妙な形で成立しており、その奇妙な佇まいは歪つなのだが同時に愛らしさすら感じさせる。
 
スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(8月6日公開・アメリカ)
 善悪が相対化され、誰が正義で誰が悪か?みたいな話をすら相対化してしまう可能性を秘めた素晴らしい作品。最後の怪獣が市民を襲っているシーンでは、ヴィラン達が襲われている市民達を可哀想に思う根源的な「感情」がフォーカスされ、そこからのヴィランVS怪獣へのバトルに移っていくところがかなり感動した。
 
・ドライブ・マイ・カー(8月20日公開・日本)
 言葉の交換よりも感情の交換についてを描いた作品のように読み取れる部分もあれば、自分が大事にしていたこだわり・ルーティーンが実は狭い思い込みで出来ていたもの、越境することの難しさとそれが出来た時の気持ちよさエトセトラエトセトラ・・・
 みたいに読み解き方は多方面に亘りそうだが、それよりもこの映画の凄いところはとにかく目を離したらこの映画はどこかに消えていってしまうのではないか?と思わせるほどの幽玄さだったように感じる。
 
子供はわかってあげない(8月20日公開・日本)
 上白石萌歌ちゃんの魅力が大爆発した最高に可愛いが詰まった映画。あらゆる障害や困難や不穏さは彼女の可愛さを引き立たせる為の装置でしかない。太古から繰り返し語られてきた「ゆきて帰りし物語」と「生き別れた親を探す話」を軸に甘酸っぱい恋愛話を絡めていく。
 
孤狼の血 LEVEL2(8月20日公開・日本)
 1の成功を続編で継承するかと思いきや、上林というハードパンチャーの投入で全く新しい境地を切り開いたのが本当に素晴らしい。何をするか分からない暴走特急的な立ち回りをする人間が居るとそれだけで盤面の動きが読みづらくなるのでワクワク感も増すし、それに対処する日岡の切迫感も大きくなってより面白く観ていて一秒たりとも気が抜けなくて良かった。
 
・マリグナント 凶暴な悪夢(11月12日公開・アメリカ)
 余りにも恐ろしいホラー描写からの鮮やかな転換に驚愕。そこまで恐怖で抑圧されていた観客はラスト30分の爽快感溢れるアクションに思わず歓喜の涙を流すに違いない。素晴らしいジェットコースター映画だった。